病気のこと

 前のホームページでもあったこの項目は、PCが壊れてから更新ができなくなっていました。それでも、見てくれている方も多いようで、時々遠くにお住まいの方から問い合わせがあったり、外国に赴任されている方が参考にして下さったりと、皆さんの役に立つこともあるようで、嬉しいことです。
 せっかく書いたものですし、今でも参考にしていただいている方がいらっしゃるので、旧バージョンを残しながら少しずつ書き換えていきたいと思っています。

各疾患の一般論は、他のサイト等に数多く記されていますので、詳しくは書きません。

ここに書くのは、あくまで「個人的な意見」ですので、その点をご留意の上お読み願います。


消化器の異常

消化器疾患は下痢、嘔吐に代表されるようにわかりやすい症状です。日常診察の中で治療をする機会がとても多い分野です。当院では病名、疾患名を特定するケースはさほど多くないのですが、いくつか書いてみたいと思います。

急性胃腸炎、下痢、吐く

 いわゆる「おなかをこわした」。何か変なものを食べたんだろうか?と皆さん考えるようですが、「原因不明」のことの方が多いです。

  • 症状
     下痢、嘔吐、その両方
  • 診断
     症状、聞き取り、他の可能性の除外、など
  • 治療
     注射、内服薬、などを症状の強さと動物の状態により組み合わせて。

 日常の診療で最も診る機会の多い病気です。原因はわからないことが多い。嘔吐物や下痢便に血が混じっていると心配になりますよね。でも、ヒトに比べて動物は何回か嘔吐や下痢をするとすぐに粘膜から出血しやすいので、ヒトの感覚ほど心配しなくていい場合がほとんどです。
 嘔吐、下痢があると食事や水を控えた方がいいように思われますが、特別な場合を除き、その必要はないと思います。ただし、与えるものは消化のいいものにしてください。
 一時的な不調ですぐに回復してくれれば問題ありませんが、時に重篤な病気が隠れていることがありますので、状態は注意して心配なときは受診しましょう。

炎症性腸疾患

 慢性の炎症を伴う腸の疾患を指します。一般の方にはさほどなじみのない言葉かと思います。小動物獣医師の間では、よく聞く疾患で、診断法、治療法など学会や講演会で話題になることが多い疾患です。

  • 症状
    なかなか治らない下痢、嘔吐。体重減少。
  • 診断
    腸の組織を採取して検査する。内視鏡で腸粘膜を採取する場合と、手術でお腹を開けて腸の一部を切除する場合がある。
  • 治療
    内服薬、食事管理等で行う。

 実はこの病気の診断をつけたことありません。症状と経過から、炎症性腸疾患かなと思うことは時々あります。確定診断には組織検査が必要ですが、そのためには全身麻酔が必要になります。動物に危険や負担を強いることになるので、先ずは「診断的治療」を行います。大半はそこで症状が治まるのでその先に進まなくて済んでます。
 ただ、もし治らない場合は、経過が長くなると少しずつ衰弱していくので、麻酔掛けてでもしっかり確定診断しないとならない。検査と治療の兼ね合いが難しい病気だと思っています。

リンパ管拡張症

腸の中のリンパ管と呼ばれる管が過剰にひろがってしまう。その結果、タンパクや脂肪分が便に漏れ出てしまい、体重減少、低たんぱく血症などを引き起こす。

  • 症状
    下痢、痩せてくる、むくみ、腹水
  • 診断
    症状、血液検査、超音波検査所見から推測、確定には病理組織検査
  • 治療
    投薬、食事管理

 実はこの病気も確定診断したことありません。でも、症状、検査結果からまず間違えないだろうというワンちゃんは何頭か経験しています。下痢になることが多いと言われていますが、意外と下痢をしない仔もいました。
その場合、食欲も元気もあり、いいウンチをしているので、飼い主さんが異常に気がつくのが遅くなります。治療に反応が悪いこともあり、やっかいな病気です。

腸閉塞

 動物の消化器官はヒトと同じで、口、食道、胃、小腸、大腸、肛門と続きます。口から食べたものは順番に流れてゆき、その過程で消化、吸収を行い不要なものは便として排泄されます。途中、器官は変わるものの基本的には「管」の中を流れていきます。この流れが腸でせき止められることがあります。これが腸閉塞です。

  • 症状
     嘔吐。特に「水を飲んで吐く」ことが多い。
     元気がなくなる。
  • 診断
     症状、消化管造影レントゲン検査、超音波検査などで行います。
  • 治療
     手術による閉塞解除。

 年に何例かは遭遇するトラブルです。「吐く」という訴えで来院された動物は大多数は胃炎などですが、常に腸閉塞は注意しなければなりません。なぜなら、腸閉塞は手術しなければ治らないケースが多いからです。さらに、腸閉塞は閉塞が解除されるまでとてもつらい。腸閉塞はなるべく早く診断を確定してしかるべく治療を行わなければならないトラブルです。
 何が腸を閉塞させるのか?圧倒的に多いのは、食べてしまった異物。スーパーボール、ぬいぐるみ、木の実、桃の種・・今までいろいろなものがおなかの中から出てきました。中には、飼い主さんも「見たことがない」物を知らないうちに食べていたこともあります。また、食べてすぐ閉塞するとは限りません。異物を食べても、胃の中にあるうちは意外と症状が出ないで元気に普通に生活しています。ある時、その物が腸に流れてゆき閉塞して症状が現れる。そんなことを何回か経験しています。また、毛玉であったり、便であったりいろんな物が原因になり得ます。さらに、腫瘍が腸閉塞の原因となることもあります。他に、腸重積という病態もあります。
普段はエサ以外食べないという動物でも油断はできません。吐いて元気がないときは、動物病院で診てもらいましょう。

便秘

 動物もヒトと同じで、食べたものを消化し必要な栄養分は腸から体内に吸収します。不要な残渣は便として身体の外に排出されます。この排便が正常通りに行われず、腸の中に過剰に便が蓄積している状態が便秘です。

  • 原因は
    わからない。体質、運動不足、肥満などは関係あると思う。
  • 症状は
    排便に時間がかかる、便意はあるが出ない、食欲不振、嘔吐など。
    ただ、無症状のこともあるので要注意。
  • 診断は
    レントゲン、触診など。
  • 治療は
    内服薬、食事管理、生活習慣の改善。
    緊急時には浣腸、場合によっては麻酔して用手排便(摘便)

 ネコに多いトラブルです。一度なると繰り返すことが多い。毎日の生活管理が大切です。また、基礎疾患が悪化の要因にもなるので、血液検査、レントゲン等で全身状態のチェックも必至です。症状がはっきりしない子もいて、特にその場合には、かなり重篤な状況になってから飼い主さんが気づくこともあります。動物の排便の状況は常に気を配ってあげて下さい。


循環器の異常

循環器の異常、特に心臓の異常は犬猫でも多く、健康な生活、時には生命に密接な関わりがあるのでとても重要です。また、慢性疾患が多いので、長期的な管理も大切です。

僧帽弁閉鎖不全症

 心臓の4つの部屋の中で、左心房と左心室の間にある弁が僧帽弁です。この弁がしっかり閉じなくなる病気です。犬、特に小型犬に多い。

  • 原因は
     加齢による組織の劣化、がほとんどです。
  • 症状は
     すぐ疲れてしまう、呼吸が荒い、咳が出る、などですが、初期の頃は意外にも、「無症状」のこともあります。
  • 診断は
     聴診、エコー検査、レントゲンなどで行います。
  • 治療は
     基本的には投薬、食事、生活習慣など内科的な治療が中心です。

「根治」が難しい病気なので「管理」が目的になります。心臓のトラブルなので、悪化すると「苦しい」。なるべく悪化しないように、苦しくないように管理したいものです。
 投薬が治療の中心となります。薬の種類、病気の特質によっては薬を長く続けない方がいい場合や、続けるとしてもなるべく少なくした方がいい場合がありますが、この病気に関しては、調子が良くてもしっかり薬をつづけてあげることが大切です。


ホルモンの異常

ホルモンは通常、身体がいろいろな状況を判断して、必要なときに必要な量を分泌します。その調整能力を超えて過剰に分泌される、あるいは機能が低下して必要なホルモンが分泌されない、といったトラブルが生じることがあります。

甲状腺機能亢進症

 甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気です。老齢のネコに多い。

  • 症状
    食欲亢進、飲水量多い、下痢、便秘、嘔吐、痩せてくる、毛艶が悪い、ハアハアしている、性格が変わった(攻撃的になる、臆病になる、など)
    これらの症状は必ず観察されるとは限りません。
  • 診断は
    血液検査でホルモンの値を測定します。
  • 治療は
    手術、内服薬、ネコの場合は食事療法


    甲状腺ホルモンは「元気のもと」的な働きがあるので、この病気に罹っていても比較的元気で気がつかないこともあります。治療はホルモンの量を少なくすることを目指すのですが、急に少なくしすぎないように注意しながら進めます。特に、ネコの場合、老齢になると腎臓の機能が低下しています。甲状腺機能亢進症だと基礎代謝が活発で、たくさん水を飲んでオシッコをたくさんする。これが、腎臓機能の低下を隠してしまうことがあります。このケースで甲状腺ホルモンを急に抑えると腎臓機能が悪化することがあります。その辺を考慮しながら、全身状態に注意を払いつつ、治療を進めていきます。

甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンが不足する病気です。犬、特に大型犬に多い。

  • 症状
    元気がない、体重増加、すぐ疲れる、などですが、はっきりした症状が出ないことが多いので厄介です。
  • 診断
    血液検査でホルモン量を調べます。
  • 治療
    甲状腺ホルモンの投薬。内服薬で投与します。

甲状腺機能低下症は症状がはっきりしないことに加えて、症状が「老化」とかぶるので、飼い主さんも獣医師も気がつくのが遅れることが多い。また、甲状腺ホルモンが足りないことが、甲状腺機能が低下しているから足りないのが、身体が必要としていないから足りなくてもいいのか、判断が難しいことがあります。
加えて、推奨されている薬用量は多すぎると思う。検査結果は参考にしますが、あくまで動物の状況をしっかり見極めながら、治療を進めていかなければならない。さじ加減に気を使う治療です。

副腎皮質機能亢進症

腎臓のすぐ横に副腎という小さな臓器があります。この副腎の皮質という部分から分泌されるホルモンが副腎皮質ホルモン、この副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される病気です。

  • 症状は
    食欲亢進、多飲多尿、呼吸が早く荒い、お腹が出てくる、などいろいろ。
  • 診断は
    ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン刺激試験、エコーでの形態検査などを組み合わせて診断します。
  • 治療は
    病態、症状によって、内服薬、手術など。通常、内服薬での管理になることが多い。

他のホルモンの病気と同様、診断、治療ともに神経を使う病気です。まず、診断が難しい。白黒はっきりしないグレーゾーンのことが多々あります。さらに治療管理が難しい。副腎皮質ホルモンはストレスがかかった時に分泌されるホルモンなので、動物が生きていくのには必ず必要な重要なホルモンです。このホルモンは多すぎても問題ですが、足りないのも問題です。その辺りの調整にはとても気を使います。他のホルモンの異常と同じですが、「治療しすぎない。」ことにも注意を払いながら治療管理を進めていきます。


副腎皮質機能低下症

副腎皮質ホルモンが十分に分泌されない病気です。
上記の副腎皮質機能亢進症よりは発生頻度は低い。

  • 原因は
    よくわからない
  • 症状は
    急性の虚脱(急にぐったりする)。慢性経過だと下痢などの消化器症状、元気がなくなるなどの漠然とした症状など
  • 診断は
    血液検査、ACTH刺激試験など組み合わせて診断します。
  • 治療は
    内服薬。急性の虚脱の場合は、点滴など集中的な管理が必要。

そんなに数多く遭遇する病気ではないので、感じが掴めませんが、他のホルモンのトラブルに比べたら、「しっかり」治療をしないとならないと思う。副腎皮質ホルモンはストレスと関連が深いホルモンなので、これが足りないと重篤な状況に陥る心配がある。
急にぐったりした犬で、この病気が疑われる症例が時々ありますが、急性期から回復すると飼い主さんがそれで満足してしまい、確定診断のための検査を受けてくれないことが多い。急変があり得る怖い病気なので、疑わしいときはしっかり検査を受けた方がいいと思う。

皮膚の異常

ヒトと同じで動物も「お肌の悩み」は尽きません。身体中に毛が生えている、自分で掻いたり舐めたりして悪化させてしまうなど、ヒトとは異なる部分もあります。

外耳炎

とても診る機会が多い。スッキリ治らないことも多い、繰り返すことも多い。難しい病気の一つだと思っています。

  • 原因は
    アレルギー、細菌感染、酵母様真菌感染、寄生虫感染、それらの混合した原因など多岐に渡ります。
  • 症状は
    耳を掻く、しきりに首を振る、耳垢が多い、耳が赤い、耳が臭い、耳が痛い、耳がグチュグチュ音がする、など
  • 診断は
    視診、症状から判断。耳垢の細胞診、細菌培養検査を行うこともあります。
  • 治療は
    外用薬、点耳薬、内服薬、注射、手術。

外耳も皮膚の一部です。皮膚が弱い子は耳も悪い子が多い。体質的な部分もあるのでなかなかスッキリ治らない。動物も飼い主さんも獣医師も大変な診療です。もちろん治るものなら治したい。しかし、あまり何回も繰り返しその都度大変な治療になるようであれば、完治を目指さないでソコソコの状態を維持することに治療目標を下げて管理することも一案かと思います。

アレルギー性皮膚炎

ヒトのお子さんでも多くの方が苦労されていると思います。動物でも同じです。特にワンちゃんに多い。「アトピー性皮膚炎」もアレルギー性皮膚炎の中に含まれます。

  • 原因は
    何かの物質に対しての生体の過剰な反応。でも一言「体質」というのがいちばん的を得ている表現だと思います。
  • 症状は
    皮膚が赤い、痒い、掻く、舐める。
  • 診断は
    症状、検査、治療に対する反応から総合的に判断します。
  • 治療は
    アレルゲンに暴露させない、アレルゲンに身体を慣れさせる、薬で症状を抑える、など。

耳、顔、手足の先端などによく症状が現れます。アレルギー性皮膚炎に細菌感染が伴うこともあり、診断、治療が多岐に渡ることも少なくありません。症状のコントロールが難しい仔もいます。痒みを抑えるのにはステロイド剤がよく効くのですが、あまり多く長くは飲ませたくない。なるべく少ない治療で痒みを少なく維持することが目標です。
最近、新しい「痒み止め」のお薬が発売されました。ステロイド剤に比べると、副作用の面では安心して使えますが費用はやや高くなります。動物の状態、飼主さんのご希望を考慮しながら処方させていただきます。

皮膚の腫瘍(皮膚にイボがある)

皮膚は動物の表面を覆う組織です。イボがあると目に付きやすいし、動物を触っている時に気づくこともあります。

  • 原因は?
    ほとんどの場合「わからない」
  • 症状は?
    場所、大きさなどによりさまざま。出血する、舐めるなどの症状が見られることもあるが、動物自身は気にしていないことが多い。
  • 診断は?
    切除して病理組織検査、針生検、目視。
  • 治療は?
    手術で切除する。

まず、診断。心配なのは「悪性腫瘍かどうか?」ですよね。これは、手術でイボを切除して病理組織検査をしないと診断ができません。
次に悩むのは「手術すべきかどうか?」これもケースバイケースです。
判断材料としては、
イボがどの場所にあるか、日常生活でじゃまにならないか?
動物自身がイボを気にしているか?触ると痛がらないか?
動物の全身状態(年齢、慢性疾患がないか、など)

手術を行う側としては、顔と四肢にできたものは大きくなってしまうと手術操作がしにくい、あるいは手術自体ができないことがあるので、早めに切除を考えていただいた方がいいかと思う。

寄生虫感染

近年、衛生面の改善、予防医療の進歩、飼い主さんの意識の向上などのおかげで、寄生虫疾患を診る機会は減ってきました。でも、まだ寄生虫はいます。

回虫

腸内に寄生する虫。子犬、子猫のウンチに混じって出てくることがあります。検便の中で最もお目にかかることが多いのがこの「回虫卵」です。

  • 症状は
    意外と無症状のことが多い。「虫がいると下痢になる」と思っていらっしゃる方が多いのですが、回虫がいても普通のウンチをしている仔は結構います。
  • 診断は
    検便。糞便中に虫そのものを見つける。など
    検便は寄生虫が卵を産まないと検出されないので、感染間もないと、検査に引っかかって来ないことがあるので注意。
  • 治療は
    駆虫薬、いわゆる「虫下し」

ほとんどの場合、虫下しで落とせますが、ときどき感染を繰り返す仔がいます。その場合は、全身状態にも注意が必要です。特にネコちゃんの場合は、ネコエイズウイルスFIV、ネコ白血病ウイルスFeLVの感染がないか血液検査で確認するといいと思います。

条虫

ノミが媒介する腸内に寄生する虫。最近まで札幌では滅多に見なかったが、この2〜3年、ネコの条虫を目にする機会が何回かあった。気温の上昇、動物の移動などの影響で今後増えてくるかもしれない。

  • 症状は
    ほとんどの場合、無症状。
  • 診断は
    虫体の検出。検便で虫卵を検出できることはほとんどない。
  • 治療は
    駆虫薬の投薬。ノミがいればノミの駆虫も合わせて行う。

今後増えそうな気配がする寄生虫です。さほど強い害はないもののいない方がいいですよね。

マンソン裂頭条虫
条虫の仲間で、「長い」。ねずみが媒介する。時々見ます。駆虫薬で駆虫します。

鞭虫

盲腸、結腸に寄生する小さな虫。犬で問題になることが多い。下痢、血便重度の寄生の場合は貧血をおこす。

  • 診断は
    検便で虫卵を検出する。
  • 治療は
    駆虫薬

 この寄生虫の特徴としては、再感染が多いことです。虫卵をたくさん産み、その虫卵が土壌中でも数ヶ月は生きるそうです。よって、ワンちゃんの生活する環境中に虫卵が存在した場合、そこから完全に虫卵をなくすことはとても難しい。もし感染してしまったら、ウンチの処理を確実にすること、検便を繰り返し、必要であれば繰り返し駆虫薬を投薬することが重要です。
 地域によってこの寄生虫が多い地域、犬種によってこの寄生虫が時々いる犬種があります。周囲の環境にも要注意です。

毛包虫

 皮膚、細かく言えば毛包に寄生する虫です。正常な皮膚にも少数います。でも、増えて数が多くなると、皮膚のトラブルになります。

  • 症状
     脱毛、皮膚が赤くなる、ふけが多くなる、ジクジクしてくる、など。
  • 診断
     皮膚を摘まみ取って寄生虫の有無を確認します。寄生虫がいるのに検査に引っかかって来ないことがあるので、疑わしい症状のときは繰り返し検査を行うことがあります。
  • 治療
     内服薬が中心です。

 この寄生虫はわからない、難しい。なかなか治り切らない。繰り返す。すっきりしない。投薬も1回だけではなく、数週間は続けていかないとならない。薬が効かなくて諦めてしばらくしたら自然に治ってしまった、なんてことも稀にある。
 動物の免疫力や抵抗力が低下したときに発症すると言われていて、確かにその通りだと思います。この寄生虫がいるときは、皮膚の状態だけではなく全身状態にも注意が必要です。

犬糸状虫(フィラリア)

 心臓に寄生する虫。蚊に刺されることで感染する。体長15cm位。

  • 症状
     初期のうちは無症状のことが多い。
     (症状が進むと)動くとすぐに息が上がる。疲れやすい。咳が出る。
     (さらに症状が進むと)お腹に水が溜まって膨らんでくる。血を吐く。死亡。
  • 診断
     血液検査、レントゲン、超音波 など
  • 治療
     薬で虫を殺す、手術で虫を摘出する等だが、いずれも危険が伴う。

蚊に刺されて虫が犬の身体の中に入る時は、顕微鏡で見えるかどうかくらいの大きさしかないのに、半年かけて犬のあちこちを回りながら成長して最後には心臓に居着いてしまう特殊な寄生虫です。寄生場所が心臓なので身体に与えるダメージがとても大きい。さらに治療に危険が伴う。一度寄生を許してしまうと大変やっかいな虫です。
でも幸い予防することができます。内服薬、注射のいずれかの方法で予防します。確実に予防してワンちゃんをフィラリア感染から守ってあげてください。


関節の異常

 関節のトラブルも動物にとって珍しいことではありません。完治を目指すか、対症で管理するか、もっと端的に言えば、手術をするかしないかで悩まされるケースも多々あります。
 判断のポイントは「痛みがあるかどうか」「日常生活に支障があるかどうか」「放置した場合、将来どのようになると予想されるか」です。

膝蓋骨脱臼

 膝の「お皿の小さな骨」が、本来なら中央にあるべきですが、内側もしくは外側に移動してしまう状態です。

  • 原因は
    お皿の骨を支えている靭帯が伸びる、もしくは切れること。
    外傷、激しい運動、ひねるなど膝関節に無理な動きが掛かったときになりやすい。
  • 症状は
    歩き方がおかしい、びっこをひく、あまり動かない。ただ、時間が経つと痛みも取れてうまく使いこなすようになり、無症状のこともあります。
  • 治療は
    完治を目指すのであれば手術です。

 小型犬で膝蓋骨が内側に脱臼するケースによく遭遇します。靭帯が切れる(伸びる)時はとても痛いので、痛い方の足をほとんど着かないでピョンピョンと3本足で歩くことが多い。でも、何日かするとほぼ普通に歩いたり走ったりしていることがほとんどです。「脱臼」という言葉の響きと、最初の痛がり方から、ビックリしてしまいますが、大抵の場合は、さほど重篤なトラブルではないと思う。

股関節形成不全

 後肢の付け根、大腿骨と骨盤の接点が股関節ですが、股関節の造りが生まれつき悪いワンちゃんがいます。大型犬に多いトラブルです。一昔前、ゴールデン・レトリバーが流行った時にしばしば診る機会がありました。

  • 原因は
     先天的な異常、遺伝?
  • 症状は
     歩き方がおかしい、お尻を左右に振るように歩く、歩きたがらない、動きたがらない等ですが、意外に無症状のこともあります。
  • 診断は
     レントゲン検査
  • 治療は
     手術、鎮痛剤、サプリメント、体重管理、運動制限

 大型犬が減ってきて、診察する機会が少なくなりましたが、まだあります。ポイントは痛いかどうかだと思っています。レントゲン上程度が強い股関節形成不全でも意外に普通に元気にしているワンちゃんも多いです。
体重管理は必至ですが、運動制限、鎮痛剤は必要に応じて、手術はどうしても痛がってかわいそうな場合に、でいいかと思います。

大腿骨頭壊死症

股関節は骨盤骨の関節窩と呼ばれる凹みに、大腿骨の骨頭と呼ばれる部分がはまり込んで形成されます。大腿骨の骨頭は普通は表面が滑らかな半円状ですが、この部分が壊死をおこしてガタガタになるのが、大腿骨頭壊死症です。関節の動きがスムースでなくなります。

  • 原因は?
    はっきりしない。虚血(血が流れない)が原因と言われていますが、なぜ虚血になるのかはわかっていない。遺伝的な素因があると言われている。
  • 症状は?
    歩き方がおかしい。ビッコをひく。あまり動きたがらない。動くとキャンキャンと痛がる。股関節の痛みからくる症状です。
  • 診断は?
    レントゲン。股関節をきれいに撮影するために鎮静する場合もあります。
  • 治療は?
    痛み止めの注射、内服。あまりひどい時には手術。

小型犬に多い。ヨークシャテリアに多い感じがする。生後1年弱くらいの月齢で症状が出ることが多い。ヒトでいうと中学生〜高校生くらい。身体の成長に筋力がついていかない時期ですね。
レントゲン上では結構ひどい関節でも、一時期痛みを抑えてあげて、体重や生活を気をつけてあげれば、生活には支障ないことが多いと思います。

男の子の病気

男の子にしかない臓器の病気です。去勢手術をしている場合は、ならないもしくはなりにくい。でも、そのために幼いうちに去勢手術をするのは、個人的には100%賛成はできない。

精巣の腫瘍

精巣は2つありますが、どちらか片方が腫瘍になる場合がほとんどです。腫瘍でない方の精巣は萎縮することが多いので、精巣の大きさが左右で違う場合は、腫瘍を疑います。定位置まで降りて来ていない潜在睾丸は腫瘍になる確率が高いと言われています。ネコでは稀です。

  • 原因は?
    わからない。
  • 症状は?
    腫瘍の種類、進行度によってさまざま。
    精巣の大きさの違い、前立腺肥大、尿失禁、毛が薄くなってくる、おっぱいが大きくなってくる、貧血、などが現れる場合もあるが、無症状のことも多い。
  • 診断は?
    精巣の大きさの違いなどから予想し、確定診断は切除して病理組織検査を行う。
  • 治療は?
    基本的には手術で腫瘍になった精巣を摘出する。

近年、「若いうちに去勢手術をしておこう」という風潮が強いため、そんなに頻繁に見ることがなくなりました。でもまだ存在する病気です。
この病気の怖いのは、腫瘍になった精巣から過剰なホルモンが分泌されるケースで、このホルモンによる悪影響が時に致死的になることがあります。特にセルトリ細胞腫という種類の腫瘍の時に怖い。精巣が2個とも定位置、あるいは鼠径部(チンチンの横)にあれば大きさの変化に気づき問題になる前に手術で切除し事なきを得ることが多いのです。しかし、腹腔内(おなかの中)に残っている精巣が腫瘍になると、かなり大きくなるまで気がつかない。そうなると取り返しがつかないほど身体にダメージを受けていることがある。
精巣が定位置に降りて来ていないワンちゃん、とくに腹腔内に精巣が残っている可能性がある子は、5歳くらいまでには手術で取っておいた方がいいと思う。

前立腺のトラブル

膀胱の出口の所で尿道を取り囲むように存在するのが前立腺です。精液の成分を作る臓器なのですが、トラブルの元になることもあります。犬に多く、ネコではまれ。去勢手術をしてある子はトラブルになりにくい。

  • どんなトラブルがある?
    単純な前立線肥大、炎症、腫瘍など
  • 原因は?
    男性ホルモンの影響があると言われている。
  • 症状は?
    血尿、尿失禁、便の回数が多い、歩き方はおかしい、動かない。無症状のことも多い。
  • 診断は?
    尿検査、レントゲン検査、エコー検査、細胞診などを組み合わせて。
  • 治療は?
    去勢手術、注射・内服などの内科療法。前立腺切除術ほか

去勢手術をしていない高齢のワンちゃんに多いトラブルです。ヒトの前立腺肥大は「尿が出にくくなる」ことが多いようですが、犬の場合はヒトに比べて尿の通り道は確保されていることが多い気がする。ただ、犬の前立腺疾患は不快感(痛み、違和感?)が強いのではないかと考えています。
前立腺は場所が身体の奥の方にあるので、診断にしても治療にしても難儀です。症状もはっきりしないことがあり、診療が難しい臓器のひとつです。

女の子の病気

女の子にしかない臓器の病気です。避妊手術を行えばならないあるいはなりにくい病気です。だからといって最初の発情前に急いで手術を行うのは、個人的には100%賛成できません。

子宮蓄膿症

子宮はご存知のとおり胎児を育てるための臓器です。子宮に細菌が入り込み増殖すると膿みが子宮内に溜まりドラブルを起こします。犬でも猫でも発病します。避妊手術を受けた子はなりません。

  • 原因は?
    子宮に細菌が侵入するから。ですが、不衛生にしていたから、とか、お尻をしっかり拭いてあげなかったから、と細菌が侵入したというわけではありません。
  • 症状は?
    食欲元気の低下、嘔吐、下痢、水をたくさん飲む、外陰部からおりものが出てくる、など。
  • 診断は?
    症状、血液検査、レントゲン、エコー検査、おりものの細胞診などで診断
  • 治療は?
    手術で膿みの溜まった子宮と卵巣を切除する。

ネコに比べて犬で治療をする機会が多い病気ですが、ネコの方が避妊手術をしていない子が少ないからだと思う。正確に統計取ったわけでありませんが、避妊手術をしていないネコは犬よりもこの病気になりやすいと感じています。
症状で意外と多いのが下痢。下痢だとどうしてもお腹を壊した方に目がいってしまい子宮の病気を忘れがちです。避妊手術を受けていない女の子が下痢をしたら要注意。
あと、生理が安定していない子もなりやすい病気です。
治療の第一選択は手術です。注射や飲み薬での治療を希望される方も多いのですが、スッキリ治らないことがほとんどです。状況が許せば手術した方がいいと思います。

乳腺腫瘍

犬、猫とも胸からおなかにかけて片側4〜5個の乳首がありその深部に乳腺があります。その乳腺に発生する腫瘍です。犬で50%、猫では80%が悪性と言われています。

  • 原因は?
    他の腫瘍と同様、原因は不明です。ただ、女性ホルモンの分泌が多いと乳腺腫瘍になる確率が高くなると思う。
  • 症状は?
    乳腺のしこりがある。動物自身は気にしてないことが多いので、飼い主さんが動物を触った時にたまたま発見することが多いようです。
  • 診断は?
    視診、触診等で判断しますが、確定診断は手術で腫瘍を切除して病理検査をおこなわないとわかりません。
  • 治療は?
    手術で腫瘍を切除します。悪性腫瘍の場合は抗がん剤等術後の治療が必要な場合もあります。動物の年齢、健康状態、腫瘍の大きさ、腫瘍の動き(大きさが変わるかなど)により、手術せずに経過観察とすることもあります。
  • 予後は?
    腫瘍が良性か悪性か、また悪性度(タチの悪さ)によって様々。悪性で肺や中枢神経に転移があるときはかなり心配な状況。


    犬と猫を比べると、犬の乳腺腫瘍の方が診る機会は多い、猫の乳腺腫瘍の方が悪性で進行が早いものが多い、といった印象を持っています。乳腺腫瘍ができる子は卵巣の働きが普通でないことが多いので、乳腺を切除する手術の時に合わせて卵巣と子宮を切除した方がいいと思う。
    最初の発情がくる前に避妊手術をすると乳腺腫瘍になる確率は少なくなります。乳腺腫瘍だけのことを考慮すればその通り、しかし動物の身体全体のことを考えると個人的には早期避妊手術はあまり賛成できません。ただ、若いうちから発情が不順だったり、発情のたびに想像妊娠になる子は将来の病気の予防のために(出産の希望や予定がなければ)避妊手術をしてあげた方がいいと思う。